ろ布
2015.12.11
洗浄を繰り返し使用するろ材の代表としてろ布があります。一般にめっきプロセスに使用されるろ布は、ろ過精度の確保およびケーク剥離性の向上を目的としてろ過助剤をプリコートして使用します。強アルカリ性の液および一部の鋼板めっきプロセスでは直接ろ布ろ過を行っている場合もあります。ろ布の選定にはろ過性能以外にも機械的強度も重視しなければなりません。さらに長期間使用によるろ布の伸縮の少ないろ布を選定する必要があります。ろ過機メーカーは熱処理、湯洗した原料の織布を使用して縫製加工していますが、ろ布の製造工程で有機物が付着する可能性もありますので、使用前に有機物を完全に洗浄する必要があります。
めっきプロセスでは強酸から強アルカリ、さらに酸化・還元雰囲気と厳しい条件で使用されます。これらの条件下で耐える材料として、ポリプロピレン系の材料が多く使用されていますが、この材料は紫外線や酸化剤に弱いので、ろ布洗浄後の乾燥や保管は直射日光を避けるなどの配慮が必要です。ポリプロピレン系以外のろ布材料としては、ビニリデン、アクリル、ポリアミド、ポリエステル系が使用されます。ろ布は比較的加工が容易であるため、使用するろ過機にあった独自の形状をしたものが使用されています。
めっきプロセスに適用するろ過機
2015.11.18
各めっきプロセスにおける品質管理の基準を満足させるためにろ過を行うのが目的であるならば、ろ過の目的を十分理解し、めっき浴の性質、作業条件などを考慮してろ過方法、ろ過面積、ろ材の種類、ろ過精度、ろ過量、材質などを決定する必要があります。
ろ材とろ過助剤
2015.11.18
めっきプロセスに使用されているろ材は大別して、洗浄を行い繰り返し使用するものと、目詰まり又は定期的に新品と交換して使用するものとがあります。ろ材形状の観点から分類すると、葉状、筒状、スクリーン状、シート状、バッグ状、粒子状のろ材があります。これらのろ材は織布、不織布、金属製金網、有機膜などで構成されています。ろ材に要求される項目としては、ろ材抵抗が少なく、捕捉する粒子による目詰まりを起こさず、希望する清澄度のろ液が得られることです。また、曲げ、引っ張り摩擦などの機械的強度、耐薬品性および熱的安定性も重要な項目です。さらに、繰り返し使用するろ材は表面が滑らかで、ケーク剥離性がよく、耐久性を持つ必要があります。実際にはすべてを満足することは難しく、ろ過の目的と操作性、コストなどを考慮して選定します。
各種めっき液中の固形不純物のろ過特性
2015.10.20
実際に使用中の各種めっき液中に含まれる固形粒子の平均粒子径とろ過ケークの圧縮指数の測定例を表に示します。この表から一般的なめっきプロセスに含まれているろ過対象となる粒子は比較的圧縮性は高いものの、ほとんどが1~10μm程度の粒子径です。めっき分野ではろ過精度として1μm程度で十分であると考えられますが、電子部品の特定の分野では0.1~0.5μmの超微粒子の分離が要求される場合があります。
表 めっき液中の固形不純物の平均粒子径と圧縮指数
めっき液 | 粒子径(μm) | 圧縮指数 |
アルカリ脱脂 | 3.5~7.0 | 0.71 |
電解脱脂 | 1.5~7.0 |
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シアン化銅 | 1.8~5.0 |
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ピロリン酸銅 | 3.5~7.0 |
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半光沢ニッケル | 3.5~7.0 |
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光沢ニッケル | 3.5~7.0 | 0.51 |
スルファミン酸ニッケル | 1.8~7.0 |
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クロム | 1.7~7.0 | 0.65 |
ジンケート | 3.5~7.0 | 0.54 |
シアン化亜鉛 | 1.5~5.0 | 0.74 |
シアン化銀 | 2.0~7.0 |
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硫酸スズ | 0.9~3.4 |
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ホウフッ化はんだ | 0.9~3.4 |
|
めっき液の汚れの原因
2015.09.25
めっき液が汚れる原因として、
① 前処理工程からめっき製品に付着した不純物の持ち込み
② 陽極材料中の不純物からの混入
③ めっきにおける酸化、還元反応などによって生成する分解物
④ 用水中の不純物
⑤ 補給薬品中の不純物
⑥ 大気中の塵埃の混入
などが考えられます。
これらの不純物が、外観、ピンホール、ピット、光沢不良、ざら、皮膜物性および異常析出などのめっき品質に悪影響を及ぼす原因となりますので、これらの不純物を浄化する必要があります。これらの不純物でろ過の対象となるのは固形不純物であり、金属イオン、陰イオン、光沢剤分解物などの溶解性不純物は隔膜電解、イオン交換樹脂吸着、活性炭吸着、亜鉛末処理、過酸化水素処理などの化学的または物理化学的操作によって除去します。
表 めっき液中の不純物と除去法
発生原因 | 主な不純物 | 処理法および対策 |
製品による持ち込み | 油脂類 | 油水分離、吸着ろ過 |
研磨粉 | ろ過 | |
前工程処理液 | 電解、化学処理 | |
めっき作業中に発生 | 陽極スライム | ろ過 |
反応生成物 | ろ過、吸着、その他の処理 | |
製品からの溶解物 | ろ過、その他の処理 | |
補給薬品中の不純物 | ろ過、その他の処理 | |
作業環境による | 室内の埃 | ろ過 |
他の工程液のミスト | 化学的処理ほか | |
補給水中の不純物 | ろ過、化学的処理ほか | |
機械装置類の腐食物 | 化学的処理ほか | |
装置類の潤滑油など | 吸着ろ過 |
ろ過の分類
2015.08.18
ろ過とは粒子が懸濁している流体中から多孔体を介して粒子を分離し、清澄な流体を得る単位操作をいいます。流体には気体と液体がありますが、ここでは液体と粒子の固液分離に限定して話を進めます。
ろ過原液から粒子を分離するために使用する多孔体をろ材、ろ過の進行にともないろ材上に捕捉されて堆積する粒子をろ過ケーク、ろ材を通過した液体をろ液といいます。
① 粒子捕捉による分類
ろ材の表面でろ過が行われるのを表面ろ過といい、粒子捕捉が進行したろ材表面にケーク層が形成され、このケーク層がろ材の役目を果たすようになるとケークろ過になります。これに対して、砂、アンスラサイト、ガラスビーズなどの一定厚みのろ材層内で粒子を捕捉するろ過を深層ろ過または内部ろ過といいます。
② 駆動力による分類
ろ過を行うにはろ材前後に圧力差を必要とし、この圧力差の考え方によって重力ろ過、真空ろ過、加圧ろ過および遠心力ろ過などがあります。
③ ろ過助剤の使用による分類
ろ過を行う場合、ろ過の難易度に影響を与える因子として、ろ過ケークの粒子径およびろ過ケークの圧縮指数があげられます。ろ過ケークの粒子径が大きいほど、また圧縮指数が小さいほどろ過は容易となります。ろ過原液中の微粒子およびコロイド状物質などを吸着、包合させることによってろ過抵抗を低下させ、ろ材の目詰まり防止をねらって添加する粒子をろ過助剤といいます。ろ過助剤を使用するろ過法を助剤ろ過といい、助剤の使い方によってプリコートろ過法とボディフィードろ過法および両者を併用したろ過方法があります。プリコートろ過とは支持ろ材の表面にあらかじめ厚さ2~5mmのろ過助剤層を形成させ、これをろ材としてろ過を行う方法で、ボディフィードろ過はろ過原液にろ過助剤を添加してろ過を行う方法です。
④ ろ液の流出方向による分類
従来のろ過原液の供給方向とろ液の流出の方向が一致するろ過をデッドエンドろ過(直ろ過)といいます。これに対して、ろ過原液をろ材面に沿って平行に高速で流しつつ、一部をろ過する方法をクロスフローろ過といいます。このろ過方法はROやUFに使用されており、最近ではMF(精密膜)を用いた懸濁物質の濃縮と清澄ろ過を同時に行う方法にも利用されています。クロスフローろ過ではろ材面への粒子の堆積が抑制され、ケーク抵抗が低く抑えられるため、安定したろ過速度が長時間持続するという特徴をもちます。
ろ過の概要
2015.07.29
流体と固体の混合体があり、流体と固体を分離する方法には下記があります。
① 沈降分離
② 遠心分離
③ ろ過
④ その他
どの方法によって流体と固体を分離するかは流体及び固体の性質等により異なりますが、ここでは液体のろ過について説明します。ろ過とは無数の小孔を有する多孔状物質を通して液体を流し、液体中に懸濁している固体粒子を液体から分離し、清澄な液体を得る操作です。ろ過する前の固体粒子が懸濁している液体をろ過原液、分離を行う多孔状物質をろ材、ろ材上に捕捉されて残った固体粒子をろ過ケーク、ろ材を通過した液体をろ液と言います。ろ過を行うにはろ材前後の圧力差を必要とし、この圧力差の種類によって重力(自然)ろ過、真空ろ過、加圧ろ過の3種類に分けられます。
ろ過は液体中の固体を分離する操作で、その目的には下記があります。
① ろ液が必要
② ろ液、ケークが必要
③ ろ液、ろ過ケーク共に必要
④ ろ液、ろ過ケーク共に不要
ろ過を必要とする分野は化学工業を始めとして、あらゆる分野に及んでいるため、スラリーの性状、ろ過ケークの性状、ろ過条件等に適合する多種多様なろ過機が次々と開発されています。ろ過を行う際、ろ過の難易度に影響を与える因子として、ろ過ケークの粒子径及び圧縮性が挙げられます。ろ過ケークの粒子径が大きい程、また圧縮性が小さい程、ろ過が容易になります。
圧縮性の大きいろ過ケークを含む液には非圧縮性の粒子を混入する事により、ろ過ケークの非圧縮化をはかります。ろ過を容易にするために添加する非圧縮性粒子をろ過助剤と言います。ろ過助剤を使用するろ過法を助剤ろ過と言い、助剤の使い方によって、プリコートろ過、ボディフィードろ過、両者を併用したろ過方法があります。プリコートろ過とは、ろ材の表面に予め2~5mmのろ過助剤層を形成させ、これをろ材としてろ過を行う方法です。ボディフィードろ過は、ろ過ケークの非圧縮化をはかるためにろ過原液にろ過助剤を添加してろ過を容易にする方法です。
通常のろ過は、ろ材の表面でろ過が行われるので表面ろ過と言い、粒子捕捉が進行しろ材表面にケーク層が形成され、このケーク層がろ材の役目を果たして行われるろ過をケークろ過と言います。これに対して、砂、ガラスビーズ、フェルト等一定厚みのろ材層内で粒子を捕捉するろ過を深層ろ過または内部ろ過と言い、一般に表面ろ過に比較してろ過精度は劣りますが、ケーク捕捉量は多いです。
ろ過におけるろ過ケークの捕捉機構もスラリーの性状、ケークの性状により複雑で未だ解決されない点も多いですが、ケークろ過におけるろ過機構の基礎となる理論式には次の2種類があります。
① 定圧ろ過式
② 定速ろ過式
定圧ろ過とはろ過差圧を常に一定に保ってろ過する方法であり、ろ過の進行により、ケーク層が厚くなり、従って、ケーク抵抗が増加するのでろ過速度が次第に低下します。この定圧ろ過の理論的解析に定圧ろ過式を使用します。
定速ろ過とはろ過速度(ろ速)を常に一定に保ってろ過する方法で、ろ過の進行に伴い、ケーク抵抗は増加しますが、この場合はろ過速度が一定なのでケークの圧力損失が次第に増加します。このろ過法に適用される理論式が定速ろ過式です。
近年になって、逆浸透法、限外ろ過法等に適用されているクロスフロー方式をろ過に応用したものが開発され、クロスフローろ過と呼ばれています。これは従来のろ過法と異なり、ろ材面に平行にろ過原液を流しつつ、その一部がろ材面を通過しろ液となります。ろ過の進行に伴いケーク層は形成されますが、ろ材面を流れる原液により、そのケーク層の成長は妨げられ、従って低いケーク抵抗のままろ過が長時間持続すると言う特徴を有します。今後、この方法によるろ過機の開発が活発になると予想されます。
参考文献
柳下相三郎『循環ろ過の概要』、1991年、7-9頁
ろ過機修理の手引き
2015.06.15
・ろ液の清澄度が悪い場合
(原因)ろ布及びパッキンング取付不良→(処置)ろ布の分解・取付直し
(原因)ろ布の破損→(処置)ろ布の交換
(原因)プリコート法、助剤使用法不良→(処置)正しいプリコートの実施
・ろ過圧力が高くてろ液が少ない場合
(原因)ろ布の目詰まり→(処置)ろ布の洗浄
(原因)ろ材の変形→(処置)ろ材の修理または交換
(原因)出口配管の詰りまたは抵抗大→(処置)出口配管点検・清掃
・ろ過圧力が低くてろ液が少ない場合
(原因)入口配管が詰まっている→(処置)入口配管の点検・清掃
(原因)空気を吸入している→(処置)グランドを締める及び吸入側点検
(原因)ポンプのランナー、ケーシング間隙大→(処置)間隙修正
(原因)ベルトのストリップまたは老化→(処置)ベルトの張りを調整または交換
・ポンプの異常音がする場合
(原因)ポンプ、モートルのカップリング芯出不良→(処置)芯出し調整
(原因)緩衝ゴムの不良→(処置)緩衝ゴム交換
(原因)ベアリング不良→(処置)ベアリング交換
・ポンプが回らない場合
(原因)ポンプケーシング内に異物混入→(処置)前ふた取外し、異物取出し、フートバルブに網をかぶせる
(原因)原液がケーシング内で結晶→(処置)前ふた取外し、結晶物取出し、作業後は液を抜く
※前ふたを取外した場合には前ふたパッキンの交換が必要になることがあります。
・ポンプシャフトの異常発熱の場合
(原因)グランドパッキングの締めすぎ→(処置)グランドパッキングを適度に締める
(原因)ポンプ軸受部の油切れ→(処置)グリス・油の注入
・グランド部より液漏れまたは空気を吸入の場合
(原因)グランドパッキングの老化→(処置)グランドパッキングの交換
(原因)軸受の摩耗→(処置)ブッシュの交換
(原因)ポンプシャフトの摩耗→(処置)シャフトの交換
・モートルの異常発熱の場合
(原因)芯出し不良→(処置)芯出し修理
(原因)オーバーロード(ポンプによる)→(処置)ポンプ修理またはバルブ調整
(原因)ベルトの張りすぎ→(処置)スライド調整
(原因)電源不良→(処置)結線部点検修理
・Vベルトのスリップまたは加熱の場合
(原因)油液がかかった→(処置)洗浄後湿気を取る
(原因)ベルトの張りすぎ→(処置)芯出し修正
(原因)ベルトの老化→(処置)ベルト交換
(原因)軸芯が狂っている→(処置)スライド調整
・バルブ回転不能の場合
(原因)サビ付いた→(処置)交換
(原因)注油をしなかった→(処置)1週間に1滴ずつ注油
(原因)使用しなかった→(処置)分解注油
・バルブハンドル部液漏れの場合
(原因)パッキング老化破損→(処置)交換
(原因)異物吸入破損→(処置)交換・液を抜き異物を残さない
(原因)締めすぎ破損→(処置)交換・固く締めない
・ポンプ分解点検を必要とする場合は弊社にご依頼ください。
ろ過機の上手な使い方『Q&A』 Q1~Q5
2015.05.29
Q1 ろ過機とは?
A: めっき液に限定して説明しますと、めっき液は主成分の薬品類の他に色々な不純物を含んでおります。品物に付着して混入するもの、陰極から溶解するスラッジ、工場内のチリ等、これらの液中に含まれる固形微粒子を除去し、めっきに影響が及ばないように液を管理をする機械です。
Q2 ろ過機の選定方法は?
A:
1 液名は ;材質の選定、回転数
2 槽容量は ;ろ過機の大きさ
3 メディアは ;ろ布、カートリッジ
4 ポンプは ;マグネット、渦巻き式
などの項目からお客様のご要望を聞き、機械を選定します。回転数は、汚れの多い場合は5回転、普通の場合は4回転、プラメッキの場合は3回転など。
Q3 ろ過機の据付方法は?
A: ろ過機のポンプ入口の高さと、めっき液液面がほとんど同じが好ましいです。液面より上にある場合と、下にある場合では運転方法が変わってきます。
※ろ過機が故障を起こした時などに、液が流出しないためにも、液面よりも上に設置することをお勧めします。また、メンテも容易になります。
Q4 ろ過機の接続方法は?
A: 現在のろ過機はPVC配管がすぐ出来るようなっております。エコエース型はフランジ、ユニオン式になっております。従来型はTS40Aスリーブ式のホース口になっております。(昔は、移動など兼用が容易なため、ホース式が多かったです。)
※お客様のご要望でフランジ式にする場合は
1 直接フランジをスリーブして相フランジ(PVC)とする場合
2 JIS10Kの短管を付けて、相フランジを付ける場合(PVC、SS、SUS)など
3 ネジ式の場合も直径100mm、JIS10Kタイプと両方出来ます。
Q5 ろ過機の配管方法は?
A: 入口配管は液中の先端にフード弁をつけ、タンクのヘリなどをまたぐ場合は、一番高い所に、エアー抜きと吸水を兼ねてバルブを付けます。また、エコエース型はポンプの手前と、ろ過機出口両方にバルブを付けておくと、ろ布、カートリッジ交換、修理の時に、非常に仕事がやりやすくなります。
出口配管は槽内の液面の上にとどめます。もし液内に入れる場合は、停止後のサイホン防止用に、槽と液面の中間箇所のタンク壁面側に穴をあけておきます。
また、この場合エアーが液の中に混入しますので、これを嫌う場合は入口と同じように、一番高い箇所にバルブをつけて、ろ過機停止後に出口バルブを閉め、仕事初めの前にこのバルブを開けます。
ろ過器の歴史
2015.04.28
工業用ろ過器の歴史はかなり古く、ヨーロッパでは16世紀から水ろ過を行っていました。フランス人Joseph Amyは1789年に上水用砂層重力ろ過器の特許を、また英国ではPeacockが1791年に逆洗付き緩速砂ろ過器の特許を取得しており、また1844年から下水ろ過にフィルタープレスを利用しています。
19世紀になるとアメリカでは金鉱が発見されてゴールドラッシュの時代を迎え、その生産のための最大のネックがろ過分離であったため、ろ過装置の開発が急速に盛んになりました。現在でも米国のろ過器は採鉱冶金に関連して開発された物が多いです。例えば、多室回転円筒型真空連続ろ過器(今日、オリバーフィルターの名で呼ばれる)の世界最初の特許は1872年にWilliamとJames Hartの兄弟が取得したものでした。Hart兄弟の特許は、ろ過・脱水・エアブローバックによるケーク除去の機構やろ室の構造等、今日の物とほとんど変わらない程に進んでいましたが、当時の技術水準からみると進歩し過ぎていたため、実用化されませんでした。このHart兄弟の特許から30年後の1903年に、米国の金鉱の採鉱技師George Mooreがその特許を取得して大量に製作し、さらに1908年にはE・L・OliberがMooreからライセンスを得てオリバーフィルターの名称で製作するようになりました。
George Mooreの名は、彼が1902年に特許を得た開放タンク真空葉状ろ過器、いわゆるムーアフィルターで有名ですが、この型式のフィルターにしてもヨーロッパでは既にDanek Suction Filterという名称で1880年に甜菜糖の製造に利用されていました。Mooreの同僚Casselは、ムーアフィルターのろ葉を固定式にしたろ過器を考案し、Butters社に譲渡し、これがいわゆるブッタースフィルターになりました。ところが、Mooreはそれを彼の特許に抵触するとして告訴しました。
ろ過器の歴史、その初期の頃は特許抗争の歴史とも言えるでしょう。現在まで、ろ過器は特定のろ過目的の為に開発されてきましたが、その種類は非常に多く、装置の選定は今なお難しい問題です。
参考文献
白戸紋平「ろ過の歴史とその世界」『循環ろ過の概要』柳下相三郎、1991年、2-3頁
古くて新しいろ過操作
2015.03.26
自然界の動植物は、多かれ少なかれ、地層を浸透してくる地下水の恩恵を受けますので、ろ過は天然現象と言えるのではないでしょうか?ろ過の起源は、粉砕・乾燥・伝熱等の単位操作の中で最も古く、私達の先祖が飲食物を調理するようになった太古の時代に始まったと考えられます。史実では紀元前約2000年頃に酒造りの過程で利用されたと言う中国の記録が最も古く、次いで紀元前1400年頃の古代エジプトのピラミッドにろ過の象形文字が発見されました。その他に、古代ヘブライの記録や、カルタゴ人の葡萄酒のろ過についての記録等、ろ過に関する史実は数多くあります。洋の東西を問わず、ろ過の起源は、酒造りと関係が深く、日本人もまた、こよなく酒を愛で、よい酒造りに丹精してきた結果、現在の日本のろ過や圧搾の技術が世界的に見て最高であると評価されるゆえんでしょう。
言葉の歴史を調べてみますと、“filter”という英語は紀元700~1100年頃の古代英語には使われておらず、その後フェルトという意味の中世ラテン語“feltrum”を語源として中世英語に“filtre”という語が生まれ、1576年頃にそれが転じて“filter”になったそうです。また、英語では圧搾を“expression”と言い、Perry's Chemical Engineers' Handbookにも学術用語として用いられていますが、“expression”という語は16世紀頃に使用され、その後廃れていたため、最近までは英米人にさえも通じにくかったようです。
ろ過や圧搾は古くから行われ、一見したところ簡単な機械的分離操作と思われますが、実際にやってみると予想に反して非常に難しい多くの問題を含んでいる事を実感するでしょう。ろ過を実施する上での「上手」と「下手」には、まさに天と地ほどの隔たりが存在するようです。
参考文献
白戸紋平「ろ過の歴史とその世界」『循環ろ過の概要』柳下相三郎、1991年、1-2頁