ろ過機

2016.08.23

 ろ過機はめっきプロセスの作業条件、設置場所とスペース、運転時間などに応じて選定します。この場合、ろ過の目的、ろ過の種類、ろ過面積、循環ろ過量、操作方法、安全性、経済性、環境への負荷、材質などを十分考慮して決定します。

 めっきプロセスに使用される市販の多くのろ過機は加圧型で0.05から0.2MPaの使用圧力範囲であり、1台当たりのろ過量は最大30㎥/hr、ろ過面積は0.2~15㎡程度です。ろ過機はプリコート型、カートリッジ型とも手動操作が主流ですが、近年は各種の自動機構をもつものが増加しています。また、地球環境保護の動きにあわせて、ろ材のみならず、洗浄廃液、装置材料を含めた廃棄物の少ないろ過システムが望まれてきています。

 めっきプロセスで使用されている代表的なろ過機の比較を表に示しました。

 カートリッジ型ろ過機は構造が簡単で、装置も比較的安価で、目的に応じたろ材を選定でき便利です。一般にろ過の負荷量が少ない小型のめっき浴に適し、貴金属めっきあるいは電子部品へのめっきなどに利用されています。カートリッジ型ろ過機に多く使用されている糸巻カートリッジろ材は単位容積、重量あたりのケーク捕捉量が少なく、廃棄時に環境に及ぼす影響が大きいことから、更なる改良が望まれています。

 葉状のろ材を放射状にコンパクトに配置した放線葉状ろ材を内蔵したプリコート型ろ過機は、設置面積あたりのろ過面積が大きくとれるため、小型から比較的大型のめっき浴にまで広く使用されており、エアーバブリングを併用した洗浄機構を備えることも可能です。ろ過精度はもとより操作性、経済性に優れ、装飾用、工業用、防錆用とほとんどのめっき浴に使用されています。プリコートに使用されている助剤の取り扱いが煩雑であり、ろ過ケークと一緒に廃棄物として排出されることから、糸巻きカートリッジろ材と同じ問題を抱えており、ろ過助剤を使用しないで同等の性能、操作性の優れた装置が望まれています。

 洗浄性に優れた円筒状のろ材を用いた自動逆洗型ろ過機と脱水用ろ過機からなるろ過システムのフローシステムを示した。従来から鋼板めっき工程などの大型のめっき工程で採用されているシステムであり、ろ材洗浄時間が短く、自動化が容易になっています。適切なろ材の選定と優れたろ材洗浄機構の採用によりろ過助剤を使用しなくても十分なろ過精度の確保と操作の自動化が可能です。

 

表 めっきプロセスで使用されているろ過機の比較

ろ過機

カートリッジろ過機

葉状ろ過機

円筒状ろ過機

ろ材

糸巻きカートリッジ、メンブレンカートリッジ、バッグフィルターなどの各種ろ材が選定できる。

円板、放射線状のろ材にろ布をかぶせて使用。プリコートをするタイプが多い。

円筒状のろ材にろ布あるいはメンブレンろ材をかぶせて使用。プリコートを使用しないタイプもある。

ろ過面積

ろ材の交換が必要な為、一般的には10inchろ材換算で1~32本程度。

0.5~50㎡程度

2.5~30㎡程度

ろ過精度

ろ材によって希望のろ過精度が選択できる。

0.1~200㎛

プリコートろ過>1㎛

ろ布ろ過>30㎛

膜ろ過>0.5㎛

プリコートろ過>1㎛

ろ布ろ過>30㎛

ろ材洗浄

ろ材は使い捨て

手動洗浄、気泡洗浄

ろ液による瞬間洗浄

自動化

ろ材洗浄がないので不要。

プリコート~ろ過~洗浄まで可能

ろ過~洗浄~脱水までの自動化が容易。

特徴

小型のめっき槽で懸濁物質負荷量の少ないろ過に適する。設備コストは安いがランニングコストは高い。

設置面積あたりのろ過面積が大きい。

ろ材洗浄時間が短く、自動の脱水機と組み合わせた完全自動操作が容易。設備コストは高い。

用途

チェックフィルター、貴金属めっき、電子部品用めっき

比較的大型の槽で負荷量の大きいめっき。ほとんどのめっき液に適す。

大型めっき槽、大負荷量に適す。装飾ニッケル、亜鉛めっき、連続鋼板めっき

 

               <表面処理鋼板用ろ過システムのフローシート>

ろ過助剤

2016.07.25

 めっきプロセスで使用されているろ過助剤として珪藻土、パーライト、セルロース、炭素などがあります。これらのろ過助剤は1種類で使用されることが多いが、2種類以上を組み合わせて使用することもあります。表に各ろ過助剤の性質および特徴を示しました。主にめっき用として使用されているのは珪藻土です。珪藻土には粒子1個の中に0.1から1㎛程度の無数の細孔があり、嵩密度が低く、透過抵抗が小さいことから理想的なろ過助剤です。ただし、ケイ酸化合物であるから、シアン化銅めっきなどの高温・高アルカリ液に使用すると主成分のシリカが溶解するため注意を要します。また、珪藻土の主成分であるシリカは労働安全衛生法で指定されている通知対象物質であるため、作業者にはシリカを含む物質を使用していることを周知させ、取り扱い時には紛体を吸入しないように注意する必要があります。

 

表 主なろ過助剤の特徴

種類

けいそう質

パーライト

セルロース

炭素

主成分

SiO2 ~95%

非晶質ケイ酸

SiO2 70%

ケイ酸アルミニウム

セルロース

99.5%以上

炭素

製法

珪藻土を乾燥、粉砕、分級して精製し、さらに1000から1200℃で焼成し、分級で粒度をそろえる。

パーライトを粉末にし、1000℃前後で急熱して膨張させ、それを粉砕、分級して粒度をそろえる。

木材バルブを原料とするセルロースの短繊維。

ピッチコークなどの炭素原料を粉砕し、600℃で急熱して膨張させ、さらに揮発分を燃焼させ、粉砕する。

嵩密度

0.25~0.35g/cm3

0.15~0.29g/cm3

0.14~0.32g/cm3

0.25~0.32g/cm3

特徴

形状が複雑で、非圧縮性であることから、ろ過助剤として理想的。不活性かつ不溶性であるが、カ性アルカリ性ではケイ酸が溶け、酸性ではシリカ以外の成分が微量ながら溶出する。

ろ過助剤として、けいそう質に次ぐ性能をそなえる。けいそう質よりやや嵩密度が小さい。溶解に関する性質は、けいそう質にほぼ同じ。

形状が細長く、可撓性で圧縮性。シリカなどの鉱物を含まず、完全に燃焼する。カ性アルカリにもけいそう質よりはやや強い。

カ性アルカリに耐える。完全に燃焼する。

その他のカートリッジろ材

2016.02.26

 その他のカートリッジろ材としてはメルトブロー法などの製法で作製したマイクロファイバーからなる不織布を用いて成形したろ材があります。このろ材は使用中に繊維の離脱が少ないため、糸巻きカートリッジろ材に比べて初期の粒子のリークが少なく、比較的細かな粒子を捕捉するのに適しています。ただし、製造工程における有機物の混入は少ないものの、ろ材によってはバインダーなどを使用している場合もありますので事前に確認が必要です。

 また、細孔径0.1~10μm程度で100~200μm程度の厚みをもつ有機膜をプリーツ状に成形した、メンブランフィルターと呼ばれるカートリッジろ材があります。一般にろ過面積を大きくとるためにプリーツ状に加工されており、0.1μm以上の固形粒子の除去が可能です。ろ過精度は最初から安定しており、不純物の溶出も少ないが、非常に高価であるため用途は限られています。

糸巻きカートリッジろ材

2016.01.18

 目詰まりまたは定期的に交換して使用するろ材の代表としてカートリッジろ材があります。糸巻きカートリッジろ材はセンターコア上に糸を規則正しく巻きつけたろ材で簡単に取り替えができ、糸巻きの厚みを利用した深層ろ過方式です。材質はろ布と同様にポリプロピレン系が主流であり、ろ過精度0.5~350μmの各種カートリッジろ材が市販されています。必要なろ過精度を選択でき、取り扱いが簡単であることから広く普及していますが、ろ材は洗浄回復性が悪く、使い捨てであるため、繰り返し使用するろ布と比較してランニングコストが高くなります。また、使用済みろ材は産業廃棄物となるため、廃棄コストの削減および環境保護の面からも問題になっています。

 糸巻きカートリッジろ材は製造工程で界面活性剤などを使用しているため、市販のろ材には10インチ1本あたり50~150mgのTOC(全有機炭素分)成分が含まれており、これがくもり、ざらなどのめっき不良を起こす恐れがあります。そのため、新しいろ材を最初に使用する場合には事前に水または温水で充分に洗浄しなければなりません。さらに、深層ろ過の原理を利用したろ過であるために、ろ過流速や圧力の急激な変動によって、内部に捕捉した粒子の漏れを生じる恐れがあります。

 糸巻きカートリッジろ材のろ過精度は、一般に90%除去率の粒子径を公称孔径として表示していることが多く、メンブランフィルターのような絶対ろ過値の99.6%除去率の粒子径とは異なる事にも注意を要します。

カートリッジろ材