はじめに
「環境基本法」は、日本の環境保全に関する基本理念と施策の基本を定めた法律であり、1993年に制定されました。
それ以前は公害対策については「公害対策基本法」、自然環境対策については「自然環境保全法」が対応していました。しかし、複雑化・地球規模化する環境問題に対応できないことから、従来の公害対策基本法に自然環境保全法の理念部分を加えて制定されたのが「環境基本法」です。
「環境基本法」の制定に伴い、公害対策基本法は廃止され、自然環境保全法は「環境基本法」に沿って改正されました。

環境基本法の構成
環境基本法のように「基本法」と呼ばれる法は、理念、基本方針が示され、その方針に沿った措置を講ずべきことを定めている法律です。
環境基本法には、環境基準の設定や環境基本計画の策定など具体的な施策に関する規定も含まれていますが、その大半は施策についての指針(方向性)を示すプログラム規定で構成されています。
なお、具体的施策は、その基本方針を受けて、個別法にて定められています。


図1 環境基本法の構成と法体系
図1のように、環境基本法は、環境関連法規の頂点に立つ法律であり、環境汚染の防止、自然環境保全、地球環境保全、循環型社会の形成、生物多様性の保全というように、幅広い分野にわたっています。なお、「環境基本法」の下位法として、2000年には「循環型社会形成推進基本法」が、2008年には「生物多様性基本法」が制定されました。これらはそれぞれ循環型社会の形成および生物多様性に関する個別法に対して上位法として位置づけられています。
それでは次に、環境基本法の構成について見ていきましょう。
環境基本法は、第1章、第2章、第3章の全3章(第1条~46条)で成り立っています。
第1章の総則には、環境基本法の目的や用語の定義、環境の保全についての基本理念、責務などが規定されています。
第2章には、法令・施策等の基本指針となる「施策の策定等に係る指針」や、環境基本計画、環境基準などが定められています。
第3章には、環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関(いわゆる「環境審議会」)と、公害対策会議について定められています。
| 第1章 | 総則(第1条~第13条) |
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環境基本法の目的(第1条)、用語の定義(第2条) 基本理念(第3~5条) 責務規定(第6~9条) その他 環境の日(第10条)、法制上の措置(第11条)、年次報告(第12条) ※放射性物質による環境汚染の防止(第13条)は2012年に削除されました |
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| 第2章 | 環境の保全に関する基本的施策 |
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第1節 施策の策定等に係る指針(第14条) 第2節 環境基本計画(第15条) 第3節 環境基準(第16条) 第4節 特定地域における公害の防止(第17条・第18条) 第5節 国が講ずる環境の保全のための施策等(第19条~第31条) 第6節 地球環境保全等に関する国際協力等(第32条~第35条) 第7節 地方公共団体の施策(第36条) 第8節 費用負担等(第37条~第40条の2) |
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| 第3章 | 環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関等 |
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第1節 環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関(第41条~第44条) 第2節 公害対策会議(第45条・第46条) |
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| 附則 | |
図2 環境基本法の構成

環境基本法で基本理念と施策の基本を定めて、その広範にわたる施策を達成させるために、さまざまな個別法が制定されているんだね。
最初に、第1章の総則(第1条~第13条)を解説していきます。
環境基本法の目的(第1条)
第1条には、環境基本法の目的が示されています。
- 環境の保全についての基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者および国民の責務を明らかにする。
- 環境の保全に関する施策の基本を定める。
これらにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、現在および将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的としています。

環境基本法は、環境の保全についての基本理念と、責務を明確にし、施策の基本を定めることによって、国民の健康で豊かな生活の確保と、人類の福祉に貢献することを目的にしているんだね。
用語の定義(第2条)
第2条には、環境への負荷、地球環境保全、公害の用語の定義が示されています。
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環境への負荷
人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるもの
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地球環境保全
人の活動により地球全体またはその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態(地球温暖化、オゾン層の破壊、海洋の汚染、野生生物の種の減少、有害廃棄物の越境移動に伴う環境汚染、酸性雨、砂漠化、森林の減少など)に係る環境の保全
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公害
事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下および悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生じること

公害は、1950年代後半から1970年代の高度経済成長期に顕在化し、公害という言葉が用いられてきたよ。1967年に制定された「公害対策基本法(現在は廃止)」で「公害」の用語が定義され、1993年に制定された「環境基本法」に引き継がれたよ。環境基本法第2条第3項に列挙されている、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭の7種類の公害については、「典型7公害」と呼ばれているよ。
環境保全の基本理念(第3~5条)
第3条から第5条には、環境の保全に係る基本理念が示されています。
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①環境の恵沢の享受と継承(第3条)
環境の保全は、現在および将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行わなければならない。
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②環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築(第4条)
環境の保全は、すべての者の公平な役割分担のもと、環境への負荷の少ない、持続的発展が可能な社会の構築、ならびに、環境の保全上の支障が未然に防がれることを目的として行わなければならない。
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③国際的協調による地球環境保全の積極的推進(第5条)
地球環境保全は、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない。
人類の存続の基盤である限りある環境が、現在および将来にわたって維持されることが、環境保全の基本理念です。地球規模の環境問題に対応し、環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会をつくることや、国際協調による地球環境保全の積極的な推進が基本理念として定められています。

地球環境を大切にしていき、将来の世代にも継承したいね。そのためには、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会をつくっていかなければならないんだね。
また環境問題が地球規模に広がっているから、地球環境保全のためには国際協調が大事なんだよ。
各主体の責務(第6条~9条)
環境保全の基本理念を軸に、第6条から第9条には、国(第6条)、地方公共団体(第7条)、事業者(第8条)および国民(第9条)の責務が定められています。
国や地方公共団体は、基本理念にのっとり、環境保全に関する施策を策定し、実施する責務があります。
また、事業者は、基本理念にのっとり、事業活動を行うにあたって、公害防止や製品の廃棄物の適正な処理、環境への負荷の低減、環境への保全の努力と、国または地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策への協力が求められています。
国民には、日常生活に伴う環境への負荷の低減、環境の保全への努力と、国または地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策への協力が求められています。

<事業者の責務>
- ①事業活動に伴って生ずるばい煙、汚染、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、または自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
- ②物の製造、加工または販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。
- ③物の製造、加工または販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が使用または廃棄されることによる環境への負荷の低減に資するように努めるとともに、その事業活動において再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、役務等を利用するように努めなければならない。
- ④事業活動に関し、これに伴う環境への負荷の低減その他の環境保全に自ら努めるとともに、国または地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。
<国民の責務>
- ①環境保全上の支障を防止するため、日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めなければならない。
- ②環境の保全に自ら努めるとともに、国または地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。

環境保全に関しては、国や地方公共団体、そして事業者だけでなく、国民の責務も規定されているんだよ。
私達国民一人一人が、環境への負荷の低減など、環境保全に努め、国や地方公共団体の施策に協力していかなくてはならないんだね。
総則のその他の内容(第10条~第13条)
その他総則には、環境の日(第10条)、法制上の措置(第11条)、年次報告(第12条)が定められています。放射性物質による環境汚染の防止(第13条)は2012年に削除されました。
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環境の日
毎年6月5日を環境の日として定めています。これは、1972年6月5日にストックホルムで開催された「国連人間環境会議」を記念して制定されました。また、日本の提案により国連でも6月5日を「世界環境デー」として制定されています。
国および地方公共団体は、環境の日の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めなければなりません。 -
年次報告
政府は、毎年、環境の状況および環境の保全に関して講じた施策ならびに講じようとする施策を国会に報告しています。
これが「環境白書」です。「環境白書」は、毎年6月に公表されています。 -
放射性物質による環境汚染の防止
従来、放射性物質による環境の汚染の防止のための措置については、第13条において、原子力基本法等によることとし、環境基本法の範囲外であることを定めていました。
しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に、環境法体系の下で放射性物質による環境汚染防止の措置を講じることができることとするため、2012年に第13条の規定が削除されました。

第13条の削除によって、放射性物質による環境汚染を防止するための措置が、環境基本法の対象とされたよ。これに伴い、大気汚染防止法および水質汚濁防止法において、環境大臣が放射性物質による大気汚染、水質汚濁の状況を常時監視することとされたよ。
それでは、ここからは、第2章の環境の保全に関する基本的施策(第14条~第40条)について解説していきます。
施策の策定等に係る指針(第14条)
先に述べましたように、第2章には、法令・施策等の基本指針となる「施策の策定等に係る指針」や、環境基本計画、環境基準などが定められています。
第14条には、施策の策定および実施は、基本理念にのっとり、次に掲げる事項の確保を旨として、各種の施策相互の有機的な連携を図りつつ総合的かつ計画的に行わなければならない定めています。
- 人の健康が保護され、及び生活環境が保全され、並びに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること。
- 生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保が図られるとともに、森林、農地、水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されること。
- 人と自然との豊かな触れ合いが保たれること。

第2章は、「環境の保全に関する基本的施策」が定められているよ。いわば、PDCAのPlan(計画)となるのが第2章なんだね。第2章の最初の第14条には、どのような施策をつくるかの指針が述べられているんだね。
環境基本計画(第15条)と環境基準(第16条)
第15条には、「政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画を定めなければならない」とされています。これが、「環境基本計画」です。
「環境基本計画」は、環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて案を作成し、閣議において決定後、遅滞なく公表しなければならないと定められています。
- 第1次環境
基本計画
(1994年) - 第2次環境
基本計画
(2000年) - 第3次環境
基本計画
(2006年) - 第4次環境
基本計画
(2012年) - 第5次環境
基本計画
(2018年) - 第6次環境
基本計画
(2024年)
環境基本計画は、おおむね6年毎に見直され、2025年10月現在のものは、2024年に見直された第6次環境基本計画です。
第16条には、政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染および騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、および生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとするとしています。これが、「環境基準」です。
政府は、「公害の防止に関する施策」を総合的かつ有効適切に講ずることにより、環境基準が確保されるように努めなければなりません。

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環境基準
人の健康の保護および生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準
環境基準は、「環境省告示第〇号」という形で、政府から告示されています。
この環境基準は、行政上の施策目標であり、環境基準の維持、達成を目標に各種の公害防止策が講じられています。工場・事業場に適用する規制基準とは異なります。

大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、の4つにいて、環境基準が決められているんだね。環境基準は、行政上の施策目標なので、基準値を超えたとしても、法的な罰則はないけど、この目標を達成させるための、工事・事業場に適用される規制基準には法的な罰則があるんだよ。
国が講ずる環境保全のための施策等(第19条~第31条)
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国が講ずる環境保全のための施策
法第19条から法第30条において、環境影響評価の推進、公害の規制、自然環境の保全、経済的な負担措置(環境税等)など国が講ずべき施策を定めています。これらの規定に基づき、環境影響評価法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの個別法が制定されています。
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公害紛争処理と被害の救済
国は、公害に係る紛争に関するあっせん、調停その他の措置を効果的に実施し、その他公害に係る紛争の円滑な処理を図るため、必要な措置を講じています。また、公害に係る被害の救済のための措置の円滑な実施を図るため、必要な装置を講じなければならない。(法第31条)
個別法として、公害紛争処理法と公害健康被害の補償等に関する法律が制定されています。
地球環境保全等に関する国際協力等(第32条~第35条)
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地球環境保全等に関する国際協力
地球環境保全について、国際協力推進のために必要な措置、開発途上地域の環境保全等に資する支援などを講じるよう努めることとしています。(法第32条)
費用負担等(第37条~第40条)
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費用負担
原因者負担および受益者負担について必要な措置を講じることとされています。(法第37条、法第38条)

環境基本法の基本的施策に基づいて、それを達成するために、さまざまな法律があるんだけど、環境法の法体系は、図1を見てね。
【参考文献】
- 1)環境基本法 環境基本法|条文|法令リード
- 2)環境基本法 e-Gov法令検索
- 3)令和6年度版環境白書「愛知県」資料編 組織・法体系等 『令和6年版 環境白書』
- 4)環境省 公害防止計画制度に係る参考資料
- 5)溝呂木 昇: ひとりで学べる 環境計量士[濃度関係] 徹底図解テキスト&問題集,ナツメ社, pp.22~31(2015)
- 6)環境省 環境の日および環境月間とは? 環境の日及び環境月間
- 7)環境省 環境基本計画とは|環境省
- 8)環境省 環境基準 環境基準|環境省
- 9)総務省 総務省|公害等調整委員会|「公害」とは?
- 10)衆議院 公害対策基本法 法律第百三十二号(昭四二・八・三)

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「環境基本法」は、日本の環境関連法規における頂点に立つ法律で、環境施策に関する基本理念と施策の基本を定めた法律だよ。