はじめに
原子番号24のクロムは金属クロムと3価クロム、6価クロムに大別されます。その中でも6価クロムは酸化作用が強いことから、工業用途で使用されています。
6価クロムはめっきや表面処理、顔料、皮革処理として用いられてきました。6価クロムは工業用途として欠かせないものとなっておりますが、人の健康に及ぼす影響が大きいことでも知られています。そのため、工場排水中の6価クロムには厳しい排水基準が設けられています。このような6価クロムを含む排水はまず還元処理を行い、比較的安全な3価クロムとして処理をしていきます。
排水に含まれる6価クロムの定量分析は私たちの健康や生活環境を守るためには必要不可欠です。工業用水・工場排水の6価クロムの定量分析はジフェニルカルバジド吸光光度法、流れ分析法、フレーム原子吸光分析法、電気加熱原子吸光分析法、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、液体クロマトグラフィーICP質量分析法により定量されます。ここでは工業用水・工場排水の6価クロムの定量分析方法としてジフェニルカルバジド吸光光度法について記載していきます。
6価クロム分析方法
6価クロムは、サンプルに1,5ジフェニルカルボノヒドラジド(ジフェニルカルバジド)を加え、硫酸酸性としたときに生成する赤紫色の錯体(クロム-1,5-ジフェニルカルバゾン)の吸光度を測定することで定量します。サンプルに6価クロムを還元する物質が含まれている場合にはこの方法の適用は困難です。
<試薬>
- ジフェニルカルバジド溶液(10 g/L)
- 硫酸(1+9)
- エタノール
- 6価クロム標準液(2 mg/L)
<器具>
- 吸光光度計
- メスシリンダー
- メスフラスコ
<操作>
- 1.50 mLのフラスコ(A)にサンプルの適量V mL(最大45 mL)を採取します。
サンプルに懸濁物質が含まれている場合にはろ紙No.5Cでろ過したろ液を用います。また、サンプルのpHが酸性の場合には水酸化ナトリウム溶液(40 g/L)で、アルカリ性の場合には硫酸(1+35)で中性にした液を用います。 - 2.フラスコ(A)に硫酸(1+9)2.5 mLを加えます。
- 3.ビーカーに上記と同量のサンプルをとります。
サンプルは1と同様に懸濁物質が含まれる場合にはろ液を使用し、中性でない場合には中性とします。 - 4.ビーカーの液に硫酸(1+9)2.5 mLとエタノール(95)を少量加えて煮沸し、過剰のエタノールを追い出します。このとき6価クロムは3価クロムに還元されます。放冷後に50 mLのフラスコ(B)に移し入れます。
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5.フラスコ(A)とフラスコ(B)のそれぞれにジフェニルカルバジド溶液(10 g/L)を1 mL加え、水を標線まで加えて振り混ぜ、5分間静置します。このとき、6価クロムを含むサンプルでは下図のように赤紫色を呈します。
発色のメカニズムとしては以下の通りです。酸性液中で、6価クロムはジフェニルカルバジドにより3価クロムに還元されます。ジフェニルカルバジドはジフェニルカルバゾンとなり、3価クロムと反応して錯体(クロム-1,5-ジフェニルカルバゾン)を形成します。この錯体は540 nmの光を吸収し、赤紫色を呈します。この赤紫色は液中に含まれる6価クロムの濃度が高いほど濃くなります。
- 6.5分静置後、フラスコ(A)の液をセルに移します。対照液としてフラスコ(B)の液をセルに移し、吸光光度計でフラスコ(A)の液を測定します。あらかじめ作成しておいた検量線から6価クロムの量C[µg/50 mL]を求め、試料中の6価クロム濃度を以下の式から算出します。
<計算式>
| C: | 吸光光度計で測定した値 [µg/50 mL] |
|---|---|
| V: | 採取したサンプルの量[mL] |
<検量線>
- 1.クロム標準液(2 mg/L)1~25 mLを50 mLフラスコに段階的に採取し、<操作>1、2、5と同様の操作を行います。
- 2.水45 mLに対して<操作>4、5と同様の操作を行います。
- 3.5分静置後、フラスコの液をセルに移します。対照液として水45 mLのサンプルをセルに移し、吸光光度計で波長540 nmとして、フラスコの液の吸光度を測定します。各濃度に対する吸光度を記録し、検量線とします。

6価クロムの定量分析を正確に行うことで、排水処理が適切に行われていることが確認できて、安心して排水できるね!
【参考文献】
- 1)日本産業規格 JIS K0102-3



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