はじめに
膜ろ過は、液体中の不純物や微粒子を取り除くための技術の1つです。このプロセスでは、特定のサイズの微小な孔を持つ膜を使用して、物質を選択的に通過させることができます。膜ろ過は様々な産業分野で広く利用されており、水処理、食品・飲料業界、製薬、化学工業などでの異物除去や濃縮に効果的に用いられています。
膜と言っても、膜ろ過に使う膜モジュールの外観は、『膜』っぽくなく、特に中空糸膜ろ過モジュールの見た目は、1本1本のストローでできている細い管の集合体だよ。
膜ろ過の種類
膜ろ過に使用される膜は、材質や性能に基づいて異なる種類が存在します。以下は一般的な膜の種類とその違いを示した一覧表です。
膜の種類 | 材質 | 特性 | 用途 |
---|---|---|---|
MF膜 (精密ろ過膜、 Microfiltration membrane) |
ポリプロピレン(PP) ポリエチレン(PE) ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など |
孔の大きさが0.1~数 µm程度のものです。孔が小さいものであれば細菌や微生物などの除去に用いられますが、ウイルスは除去できません。 | 飲料水の前処理、 食品・飲料のろ過、 廃水処理 |
UF膜 (限外ろ過膜、 Ultrafiltration membrane) |
酢酸セルロース(CA) ポリアクリロニトリル(PAN) ポリスルフォン(PS)など |
MF膜よりも微細な孔(2~100 nm)を持つ膜であり、タンパク質や高分子物質の分離ができます。細菌・水の中の濁りを除去します。 | 医療用透析、 食品・飲料のろ過、 製薬業界 |
NF膜 (ナノろ過膜、 Nanofiltration membrane) |
ポリアミド(PA) ポリメチルメタクリレート(PMMA) セラミックなど |
NF膜はUF膜よりもさらに小さい2 nm以下の微細な孔を持つ膜であり、ウイルスや農薬の除去などに用いられます。2 nmよりも小さな高分子を阻止できる膜もあります。 | 飲料水処理、 製薬業界、 化学工業 |
RO膜 (逆浸透膜、 Reverse osmosis membrane) |
酢酸セルロース(CA) ポリビニルアルコール(PVA) ポリアミド(PA)など |
RO膜の孔径は概ね1 nm以下(孔がないという説もある)、水に溶け込んでいる物質・イオン・塩類を除去できます。そのため、海水の淡水化等に用いられています。 | 海水淡水化、 超純水の製造、 工業用水の処理 |
膜ろ過技術は、各種産業において重要な役割を果たしており、効率的かつ高品質な製品の生産に寄与しています。
各種膜ろ過方法の比較
MF膜と他のろ過方法(UF膜、NF膜、RO膜)の比較について述べます。それぞれのろ過方法の特性や適用分野の違いを理解することで、最適なろ過技術を選定する際の参考になります。
- 1.孔径とろ過精度:各膜の孔径と除去可能な物質の大きさについて比較します。MF膜は0.1~数 µmの孔径を持ち、細菌や微生物の除去に適しています。UF膜、NF膜、RO膜の順に孔径が小さくなり、より微細な物質を除去できます。
- 2.適用分野:それぞれの膜が使用される分野や用途について比較します。例えば、MF膜は廃水処理や食品産業に適していますが、RO膜は海水淡水化や超純水の製造に使用されます。
- 3.運転条件:運転圧力、温度、pH範囲などの運転条件について比較します。MF膜は比較的低圧で運転可能ですが、RO膜は高圧が必要です。
- 4.コ ス ト:膜の初期コストや運転コストについて比較します。一般的に、RO膜は他の膜に比べてコストが高いです。
- 5.メンテナンス:メンテナンスの頻度や方法について比較します。MF膜は比較的簡単なメンテナンスで済みますが、RO膜は高度なメンテナンスが必要です。
-
6.性能の持続性:
膜の耐久性や長期的な性能について比較します。
耐ファウリング性一般的には、孔径が大きいMF膜は内部の目詰まりが少なく、洗浄で比較的容易に回復できる一方、表面に懸濁物が蓄積しやすい点が課題です。UF膜はMF膜に比べて、より細かい粒子や有機物による内部ファウリングのリスクがあるため、操作条件(流速、前処理)による管理が重要です。NF膜およびRO膜は、分子レベルでの分離を可能にする反面、極小の孔(RO膜には孔がないという説もある)と高い運転圧力ゆえに、無機スケールや有機物・バイオファウリングが発生しやすく、洗浄・メンテナンスがより厳格に求められます。
寿命:MF膜 ≈ UF膜 > NF膜 ≈ RO膜MF/UFは物理的洗浄が効くため長寿命。RO/NFは化学洗浄の影響で劣化しやすい。
MF膜の仕様
MF(Microfiltration)膜の仕様については、以下の通りです。
- 材 質:ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など
- 孔 径:0.1~数 µm
- ろ過速度:10~500 L/m2h(膜の種類および運用条件により異なる)
- 耐薬品性:強酸、強アルカリに対する耐性あり(使用する材質により異なる)
- 耐 熱 性:最高運用温度80~120℃(使用する材質により異なる)
- 圧力損失:初期圧力損失0.01~0.05 MPa(運用条件により異なる)
- 運用条件:通常の運転圧力0.05~0.2 MPa、pH範囲2~12
MF膜は、飲料水の処理、食品・飲料産業、製薬業界、排水処理など、多岐にわたる分野で利用されています。モジュールの形状は中空糸型やスパイラル型などがあり、当社の製品は、チューブラー型の膜モジュールです。具体的な用途や運用条件に応じて選択されます。
膜モジュールは、膜ろ過プロセスに使用される基本的なユニットで、膜を一定の形状に整え、ろ過効率を高めるために設計されている構造体だよ!
MF膜のろ過方法
MF膜のろ過方法は以下のように進められます。
- 1.前 処 理:ろ過する液体に含まれる大きな固形物や濁質を取り除くため、スクリーンフィルターや沈降槽を使用して、前処理を行います。これにより、MF膜の目詰まりを防ぎ、膜の寿命を延ばすことができます。
- 2.膜モジュールの準備:MF膜モジュールをシステムにセットし、初期洗浄を行います。初期洗浄は、膜の性能を安定させるために必要です。
-
3.ろ過運転:
- デッドエンド方式:ろ過液が膜を通過して分離され、残留物は膜表面に蓄積される方式です。この方式では、すべての供給液がろ液(透過水)として回収され、不純物は逆洗により膜表面から除去されます。デッドエンド方式はシンプルで運用が容易ですが、膜のファウリングが起こりやすく、定期的な洗浄が必要です。
ファウリングとは、ろ過膜の表面や孔に微粒子、微生物、有機物、無機物などが付着し、膜の性能を低下させてしまうような現象だよ!
- クロスフロー方式:処理対象液が膜表面に対して平行に流れ、一部がろ液として膜を通過し、残りの供給液は原液槽に戻される方式です。クロスフロー方式では、流れが膜表面の懸濁物質の堆積を抑制し、ファウリングを遅らせます。この方式は膜の寿命を延ばし、効率的な運用が可能です。
- 4.洗 浄:ろ過・濃縮が進むにつれて、不純物が膜表面に蓄積します。定期的に膜の逆洗や薬品洗浄を行い、膜表面に付着した不純物を除去します。これにより、膜の性能や、運転効率を維持します。
- 5.運用管理:圧力、ろ液流量、ろ液濁度などをモニタリングし、適切な運用管理を行います。異常が発生した場合には、迅速に対策を講じることで、システムの安定運転を確保します。
デッドエンド方式とクロスフロー方式の選択は、ろ過対象の液体の性質や運用条件に応じて決定されます。デッドエンド方式は単純で運用が簡便ですが、クロスフロー方式の方が膜の寿命を延ばし、安定した性能を維持する上で有利です。
(以上の手順に従うことで、MF膜を用いたろ過プロセスが効果的に実施されます。)
MF膜のメンテナンス
MF膜のメンテナンス方法について詳述します。適切なメンテナンスを行うことで、膜の寿命を延ばし、ろ過効率を維持することができます。
- 1.定期洗浄:膜表面に付着した汚れを除去するために、定期的な洗浄が必要です。一般的な洗浄方法としては、逆洗、薬品洗浄、酵素洗浄があります。
- 2.逆 洗:逆洗は、膜の透過液側から給水側に向けて水を流し、膜表面に付着した汚れを物理的に除去する方法です。通常の運転終了後に行うことが推奨されます。
- 3.薬品洗浄:膜の材質とファウラント(汚れ)に応じた薬品を使用して、ファウラントを化学的に除去します。酸性薬品やアルカリ性薬品を用いることが一般的です。
- 4.定期点検:膜モジュールやシステム全体の状態を定期的に点検し、必要に応じて部品の交換や修理を行います。これにより、システムの安定稼働を確保します。
- 5.運転データの記録:ろ過圧力、ろ液流量、ろ液濁度などの運転データを記録し、異常を早期に発見するための参考にします。
- 6.予防保全:計画的なメンテナンスを行い、膜の劣化を防ぎます。定期的なメンテナンススケジュールを設定し、計画的に実施します。
【参考文献】
- 1)伊東章;トコトンやさしい膜分離の本,日刊工業新聞社(2010)
- 2)和田洋六;表面技術,第73巻,第10号,481-488(2023)
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