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全シアンの分析方法

2024.10.22

はじめに

シアン化合物は、水中のシアン化物イオン、シアノ錯体などの総称であり、JIS K0102-2では、シアン化物イオンと全シアンに区分します。
全シアンは試料をpH2以下で蒸留し、発生するシアン化水素を水酸化ナトリウム溶液に捕集して定量します。この前処理法によって、シアン化物イオンおよびほとんどのシアノ錯体中のシアンは留出します。
定量する方法にはイオン電極測定方法、ピリジン-ピラゾロン吸光光度分析法、4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度分析法および流れ分析法(4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン発色)があります。

当社では主にイオン電極測定方法と4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度分析法を用いて定量しますので、ここではこの二つの方法について説明します。
シアン化合物は変化しやすいので、試験は試料採取後、直ちに行うことが望ましいです。直ちに行えない場合は、水酸化ナトリウム溶液(200 g/L)を加えてpH12として保存します。
試料に残留塩素などの酸化性物質が含まれている場合は,L(+)-アスコルビン酸溶液(100 g/L)を加えて還元します。(残留塩素などの酸化性物質の共存でアルカリ性保存を行うと、保存中にシアン化物イオンが酸化されて一部がシアン酸イオンになる恐れがあります。)

ロカッキー

JIS K 0102-○は工業用水試験方法と環境基準や排水基準の検定法として採用されている工場排水の試験方法が定められた規格だよ。

前処理(蒸留)

全シアンの前処理には下の図のような蒸留装置を使用します。使用する薬品と蒸留操作は以下の通りです。

<薬品>

  • 水酸化ナトリウム溶液(20 g/L)
  • りん酸
  • L(+)-アスコルビン酸溶液(100 g/L)
  • アミド硫酸酸アンモニウム溶液(100 g/L)
  • EDTA4Na溶液(100 g/L)
  • フェノールフタレイン溶液(5 g/L)

<器具及び装置>

  • メスシリンダー(100 mL)
  • ビーカー(100 mL)
  • 標線付きメスフラスコ(100 mL)
  • メスフラスコ(50 mL)
  • 撹拌機
  • シアン化物イオン電極
  • 蒸留装置

前処理(蒸留)

<蒸留操作>

  • (1)試料50 mLを蒸留フラスコ500 mLに取り、水を加えて約250 mLとします。指示薬としてフェノールフタレイン溶液(5 g/L)を1滴加えます。指示薬は試料のpHを確認するために使用します。
  • (2)試料がアルカリ性の場合には、溶液の赤い色が消えるまでりん酸を滴下し、溶液を弱酸性にします。試料のpHがアルカリ性の場合、操作(4)でリン酸10 mL添加してもpHが2以下にならない可能性があるからです。
  • (3)アミド硫酸アンモニウム溶液(100 g/L)を1 mL加えます。試料に亜硝酸イオンが存在すると加熱蒸留時にEDTAと反応してシアン化水素を生成しますので、アミド硫酸アンモニウム溶液を添加して亜硝酸イオンを除去します。
  • (4)蒸留フラスコを図のように接続し、受器にはメスシリンダー(有栓形)100 mLを用い、吸収液として(20 g/L)水酸化ナトリウム溶液を20 mL加え、蒸留装置に接続します。逆流止めの先が水酸化ナトリウム溶液に浸かるようにします。
  • (5)注入漏斗から蒸留フラスコにりん酸10 mLを加え、次に、EDTA・4Na溶液10 mLを加え、少量の水で注入漏斗を洗い、洗液を蒸留フラスコに加えます。金属シアノ錯体からシアン化物イオンを解離します。
  • (6)数分間静置した後、蒸留フラスコを加熱し、留出速度2~3 mL/minで受器の液量が約90 mLになるまで蒸留します。
  • (7)受器および逆流止めを取り外し、冷却器の内管および逆流止めの内管を少量の水で洗い、洗液も受器に加えた後、水を100 mLの標線まで加えます。
  • (8)空試験として、水50 mLについて(1)~(7)まで行います。

イオン電極法

イオン電極にはイオン選択性があり、特定イオンに応答する感応膜の種類によって、ガラス膜電極、固体膜電極、液体膜電極および隔膜電極に分けられます。

シアン化物イオンの測定には固体膜電極を使用します。固体膜電極は難溶性金属塩を主成分とする粉末を加圧成型した膜または難溶解性金属塩の単結晶を感応膜としています。固体膜電極が液中のシアン化物イオンと接する際にシアン化物イオンの活量に応じて生じる膜電位と比較電極との電位差を測定します。シアン化物イオン濃度は事前に作成した検量線から読み取ります。

<手順>

  • (1)検量線を作成します。

    • ※1 検量線は、いくつか既知濃度の溶液を調製して、それに対する電位差を測定して作成します。
    • ※2 当社では4つの既知濃度の溶液を調製して検量線を作成します。
  • (2)前処理で得られた留出液全量を100 mLビーカーに移します。
  • (3)電極を液に浸けて5分間撹拌します。
  • (4)5分間撹拌後の値を読みます。

イオン電極法

4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度法

前処理して得られた留出液の一部をとり、酢酸で中和した後、クロラミンT溶液を加えて塩化シアンとし、これに4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン溶液を加えて生じる青色の吸光度を測定してシアン化物イオンを定量します。以下に必要な試薬と操作手順を示します。

<薬品>

  • 酢酸(1+8)(1 g/L)
  • フェノールフタレイン溶液(5 g/L)
  • りん酸塩緩衝液(pH7.2)
  • クロラミンT溶液(10 g/L)
  • 4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン溶液

<装置>

  • 恒温槽(25 ℃ウォーターバス)
  • 分光光度計

<手順>

  • (1)前処理で得られた留出液から10 mLを全量フラスコ50 mLにとります。
  • (2)指示薬としてフェノールフタレイン溶液を1滴加え、静かに振り混ぜながら溶液の赤い色が消えるまで酢酸(1+8)を滴加した後、りん酸緩衝液(pH7.2)を10 mL加え、pHを7~8にします。pH7~8は発色の最適pHです。
  • (3)クロラミンT(10 g/L)溶液を0.5 mL加え、約25 ℃の水浴中で5分間静置します。クロラミンTを添加して塩化シアンを生成させます。
  • (4)4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン溶液を10 mL加え、さらに水を標線まで加え、密栓して静かに振り混ぜ後、25 ℃の水浴中で30分間静置して発色させます。水温は25℃より低いと発色の速度が遅くなり、25℃より高いと発色速度は速くなりますが、安定性が弱くなります。
  • (5)発色後30分以内に溶液の一部を吸収セルに移し、波長638 nm付近の吸光度を測定します。吸光度を測定する前までは25℃の水浴中で静置させます。
  • (6)空試験として蒸留操作(8)で得られた留出液を用いて(1)~(5)まで行います。

<検量線>

  • (1)シアン化物イオン標準液(CN- 1 µg/mL)0.5~9 mLをそれぞれ全量フラスコ50 mLにとり、水を加えて約10 mLとした後、手順(2)~(5)を行います。
  • (2)検量線用空試験として水を用いて手順(2)~(5)を行い、標準液で得られた吸光度の値を補正します。
  • (3)シアン化物イオンの量と吸光度の関係を表すグラフを作成します。

【参考文献】

  • 1)日本産業規格K0102-2
  • 2)日本規格協会:詳解 工場排水試験方法 JIS K 0102 解説
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