1.はじめに
イオン交換樹脂は交換可能なイオンの種類によって、「陽イオン交換樹脂」、「陰イオン交換樹脂」、「キレート樹脂」などに大別されます。ここでは下図の図1のように陽イオンを交換可能な陽イオン交換樹脂について記載します。
図1 陽イオン交換のイメージ
2.陽イオン交換樹脂
陽イオンとは正の電荷を帯びた原子や原子団であり、例としてナトリウムイオン(Na+)やカルシウムイオン(Ca2+)、アンモニウムイオン(NH4+)などが挙げられます。陽イオン交換樹脂は液相中のこのような陽イオンを取り入れ、代わりの陽イオンを放出します。
(I)強酸性陽イオン交換樹脂
陽イオン交換樹脂はイオン交換基の酸解離定数の大きさにより、強酸性陽イオン交換樹脂と弱酸性陽イオン交換樹脂の2種類に分かれます。強酸性陽イオン交換樹脂はイオン交換基にスルホン酸基(-SO3H)を持ちます。このスルホン酸基は硫酸と同様に解離し強酸性を示し、全pH領域でイオン交換能を示します。
強酸性陽イオン交換樹脂に対する陽イオンの選択性は以下のようになります。溶液の濃度や樹脂の架橋度などにより異なりますが、原子価が大きいものほど強く、同様の価数では水和イオン半径が小さいものほど強く吸着するとされています1,2)。このような選択性から強酸性陽イオン交換樹脂はイオン交換基に水素イオン(H+)やナトリウムイオン(Na+)を予め吸着させ、その他の陽イオンを吸着しやすいように使用します。
強酸性陽イオン交換樹脂の選択性
Li+ < H+ < Na+ < K+ < Ca2+ < Al3+
強酸性陽イオン交換樹脂はスチレン(C6H5CH=CH2)とp-ジビニルベンゼン[C6H4(CH=CH2)2]の共重合体にスルホン酸基を導入することで得られます。強酸性陽イオン交換樹脂の構造式を図2に示します。また、イオン交換樹脂の骨格をRとすると、スルホン酸基(-SO3H)と塩化ナトリウム(NaCl)の反応は式(1)で表せます。
図2 強酸性陽イオン交換樹脂の構造式
イオン交換樹脂は例えば式(1)の右側へのイオン交換反応が進むと、それ以上反応が進まなくなります。これはイオン交換基への吸着が飽和するためです。再びイオン交換能を示すようにするためには再生という操作をおこないます。陽イオン交換樹脂の再生には通常、塩酸や硫酸を用います。
強酸性陽イオン交換樹脂は前述のように水素イオン(H+)の選択性が低いことから再生し難く、理論的な再生剤量よりも大量の再生剤が必要となります。
このような強酸性陽イオン交換樹脂は純水製造や硬水の軟水化、医薬品や食品の精製、工場排水中の金属イオンの除去などに使用されています。
(II)弱酸性陽イオン交換樹脂
弱酸性陽イオン交換樹脂はイオン交換基にカルボキシル基(-COOH)やホスホン基(-PO3H2)をもちます。これらは弱酸性であるため、中性~アルカリ性で解離します。したがって、アルカリ性である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中のナトリウムイオン(Na+)にはイオン交換能を示しますが、中性塩である塩化ナトリウム(NaCl)水溶液中のナトリウムイオンにはほとんどイオン交換能を示しません。
弱酸性陽イオン交換樹脂の陽イオンに対する選択性は強酸性陽イオン交換樹脂と類似しますが、重金属イオン(銅など)に対してはキレート結合するために高い選択性を示します。また、pHによる選択性の依存は大きく、これは重金属イオンの溶存形態の変化に起因します。
カルボキシル基(-COOH)を持つ弱酸性陽イオン交換樹脂はスチレン(C6H5CH=CH2)とp-ジビニルベンゼン[C6H4(CH=CH2)2]、メタクリル酸[CH2=C(CH3)COOH]の共重合体として得られます。弱酸性陽イオン交換樹脂の構造式を図3に示します。また、イオン交換樹脂の骨格をRとすると、カルボキシル基(-COOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)の反応は式(2)で表せます。
また、式(2)のような反応が起こるとき、樹脂の体積は増加します。H型からNa型への体積変化は最大2倍程度にもなり、装置設計の際には注意が必要となります。このような体積の変化は樹脂内のイオンと外液のイオンの濃度差に基づく浸透圧差により生じます。今回の弱酸性陽イオン樹脂はNa型になることで樹脂内の浸透圧が大きくなり、樹脂内に水分が入り込むことで樹脂の体積が増加します。
図3 弱酸性陽イオン交換樹脂の構造式
弱酸性陽イオン交換樹脂も強酸性陽イオン交換樹脂と同様にイオン交換反応が進むとイオン交換能を示さなくなり、再生が必要となります。
弱酸性陽イオン交換樹脂は強酸性陽イオン交換樹脂と比較すると、水素イオン(H+)に対する親和力が強いため、強酸性陽イオン交換樹脂よりも少ない再生剤で再生が可能です。
このような弱酸性陽イオン交換樹脂はアミノ酸の精製やNa型として金属回収に用いられます。
【参考文献】
- 1)垣花秀武,成田耕造;最新イオン交換,廣川書店,p.7(1960)
- 2)日色和夫;環境技術,第9巻, 第8号,637-643(1980)
陽イオン交換樹脂は強酸性と弱酸性のイオン交換基の違いによって再生のし易さや体積変化が大きく異なるんだね。