はじめに
表面処理では、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸が金属表面の酸化物や錆等の除去などに使用されています。
アルミニウムの表面処理においては、アルミニウムの表面に酸化被膜を形成するためにアルミニウムを陽極として電解処理(陽極酸化処理またはアルマイト処理)が行われています。アルマイト処理を行うことにより、アルミニウムが溶解し、酸の能力が低下します。そのため、アルミニウム濃度が管理濃度になった時点で、槽内の酸溶液を廃棄し、新しい酸溶液に更新することで能力を維持しています。槽内の濃度を維持可能であれば、液の更新を行わずに使用することができます。酸・金属塩分離装置リサイター®を用いることで槽内濃度を管理することができます。
リサイター®とは
リサイター®という装置は、酸と金属塩を分離する装置です。リサイター®は昔から知られているアシッド・リターデーションを利用した装置です。アシッド・リターデーションは、図1のように金属塩を含む酸をイオン交換樹脂に通液したときに、酸は樹脂内を通るため金属塩が先に通過するという現象です。
図1 模式図
この装置を使用することで、槽内で発生した金属を除去することができ、槽内の金属濃度を一定に管理することが可能となります。槽内の金属濃度を一定に保つことができれば、槽内の液の更新頻度を減少させることができます。
リサイター®は槽内の金属濃度を一定にする装置なんだね
リサイター®の工程
リサイター®の運転は排出工程と回収工程の2工程に分けられています。
- ①排出工程は金属を含む酸を上向流で通液する。
- ②排出工程で得られた排出液は酸を少し含む金属塩の溶液であるため、系外に排出する。
- ③回収工程は水を下向流で通液する。
- ④回収工程で得られた回収液は、金属塩を含む酸であるため、槽内へ戻す。
この操作を繰り返し行うことで、発生する金属を除去しています。
図2 装置の概略図
リサイター®導入の効果
硫酸アルマイト処理を例にして、効果を示します。表1にアルマイト槽の条件例を示します。アルマイト処理を行うことで、アルミニウムが溶解し、硫酸が消費されます。そのため、硫酸を適時添加しながら、アルマイト槽の硫酸濃度を一定にしてアルマイト処理を行います。蓄積したアルミニウムは管理濃度以上となったときに液を更新します。
表1 アルマイト槽の条件例
槽容量[L] | 1200 |
---|---|
アルミニウム発生量[g/h] | 50 |
硫酸濃度[g/L] | 200 |
70%硫酸添加量[L/h] | 0.3 |
更新後のアルミニウム濃度[g/L] | 5 |
更新前のアルミニウム濃度[g/L] | 10 |
更新までの稼働時間[h] | 126 |
更新量 [L] | 600 |
※くみ出しによる減少量を考慮しない。
※更新廃液は排水処理
表1のような条件にリサイター®を導入した場合、リサイター®の運転条件は表2のようになります。リサイター®の大きさは、金属発生量および槽内金属管理濃度によって決まります。
表2 リサイター運転条件
樹脂量[L] | 10 |
---|---|
通液速度※[h-1] | 10 |
金属除去率[%] | 30 |
槽内金属管理濃度[g-Al/L] | 5 |
酸回収率[%] | 95 |
1時間当たりのサイクル数[回] | 5 |
1サイクル当たりの排水量[L] | 5 |
※空間速度のこと。充填されているイオン交換樹脂に対して、1時間あたり何倍量通液するかを表している。
リサイター®の導入前後の薬品使用量を表3に示します。表3より、リサイターを導入することにより、薬品使用量を減らすことができます。
表3 薬品の使用量
リサイター®導入前 | リサイター®導入後 | |
---|---|---|
硫酸使用量[kg/月] | 490 | 242 |
水酸化ナトリウム使用量[kg/月] | 396 | 198 |
薬品費用[円/月] | 79,000 | 39,400 |
※稼働時間: 1日20時間、1週間5日
※薬品費用: 40円/kg-H2SO4 150円/kg-NaOH
リサイター®を導入することで、液の更新頻度が減少するため、作業効率も向上するんだよ。
リサイター®のラインナップ
リサイターのラインナップは表4のとおりです。
表4 ラインナップ
型式 | 標準処理量 [L/h] |
据付寸法[mm] | 運転時重量 [kg] |
供給電力 [kW] |
フィルター | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
幅 | 奥行 | 高さ | |||||
W1SR-25 | ~12.5 | 650 | 400 | 1000 | 47 | 0.1 | オプション |
W1SR-50 | ~25 | 650 | 450 | 1100 | 53 | 0.1 | オプション |
W1SR-100 | ~50 | 500 | 1150 | 2050 | 185 | 0.5 | オプション |
W1SR-150 | ~75 | 500 | 1150 | 2050 | 205 | 0.5 | オプション |
W1SR-350 | ~175 | 1250 | 700 | 2100 | 335 | 0.5 | オプション |
※W1SR-350以上は仕様打ち合わせにより決定
リサイターの大きさは、金属発生量、管理金属濃度および通液速度から算出されます。標準のラインナップより大きい装置が必要な場合は、仕様の打ち合わせにより特殊仕様でのご提供が可能です。
まとめ
酸と金属の分離装置リサイターはイオン交換樹脂が持つ特性を利用して、槽内で発生する金属を分離除去して、槽内の金属濃度を安定化させます。金属濃度が安定することで、液の管理がしやすくなり、液の更新周期を伸ばすことができます。また、薬品使用量も低減することができ、環境負荷低減にも寄与することができます。
【参考文献】
- 臼井好文;“リターディションによる酸洗液からの金属分離”, 表面技術, Vol.60, No.5, 305-308(2009)
表面処理では、酸が重要な役割をしているんだね